lapin noir

Diary | Photo | Sapporo

思いもよらぬ、三島

 写真を撮るほどアクティブにはなれない。それでも軽く外出したい時に居心地のいい場所になるのが古本屋だ。雨だったら尚のこといい。湿度感と古本のカビ臭さや湿気の臭いが相まって、ちょっと懐かしい気分になる。私は古本のこういった独特な臭いはあまり好きではないけれど、良いこと、悪いこと、冴えないこともすべて対等な思い出として蘇り、自分と何かを繋いでくれる本を探しながら、時間旅行できる点が気に入っている。例え、いい出会いがなかったとしても、実際に古本屋へ行くことが大事なのだ。  

 ゴールデンウィークの後半は、正しくそんな日であった。家を出る支度の最中、窓を覗けば小雨がぱらついてきた。特に約束もないので街へ行くのを止め、傘を持ち、古本屋へ向かった。古本屋と言っても、最近では若い方が新規で開店するカジュアルテイストの書店が増えてきた。また、古本に限らず喫茶スペース・雑貨売り場に併設したセレクトショップもあり、以前よりは気軽に街の小さな本屋さんへ入りやすくなったと思う。
 古本のおもしろさのひとつとして、線や書き込み、挟み込み等の痕跡があった場合、あれやこれやと想像を巡らせる楽しさがある。特に印象的だったのは、1999年の「芸術新潮」に挟まれていたJASの搭乗券だ。搭乗券には、行先札幌千歳 / 6月19日19:00発 / 搭乗口1/ 座席番号 / 氏名 が記されている。挟まれていたページは、アーネスト・サトウがアンリ・カルティエ=ブレッソンについて講義した内容を、弟子である美術家の森村泰昌が再現した特集ページだった。しおり代わりにしたのだろうか。
 私は普段、読みかけの本には自分の写真プリントを挟んでいる。今、所持している本や雑誌は、いつか古本屋に買ってもらうので、自分のプリントを挟んで渡そうかと考えている。手に取って貰えるかわからない、見知らぬ誰かの為に送る写真。裏には日付、場所、名前を書こうか。Message in a bottle みたいで夢があっていいでしょう?

 他にも古本屋では予期せぬ偶然というのがあって、ささやかな日常に静かな喜びをもたらしてくれる。今回は、北大界隈で3件ハシゴして、最後に寄ったのは創業から数十年経つところだった。前にも来たことがあって久しぶりだったけれど、特に変わった様子もなく、店舗外にはカメラ雑誌を始め、趣味系書籍がひっそりと陳列されていた。ガラス扉を開けて店内へ入ると、背の高い本棚がずらりと奥まで並び、通路には本棚に入りきらない書籍が至るところで雑然と積み上げられ、昔からある古本屋らしい佇まいであった。私は早速、入口横の100円コーナーを物色した。すると「三島由紀夫のレター教室」があるではないか。びっくりした。私は真っ先に手に取った。辻仁成さんのオンライン教室に参加した先月、冒頭で辻さんが後ろの本棚を指さし、「三島のレター教室もあるけれど・・・」と、ぼそっと呟いたのである。私は気になったのでチェックしていたからよく覚えていたけれど、まさかここにあるとは。しかも入店後、すぐに出会うなんて運がよかった。
 三島のこの本は、100円コーナーにあったので価格は当然100円である。帰宅してからネットで調べると高いものは数千円、安くて1000円弱という価格で、100円で売ってる書店は見当たらず、もの凄く得した気分になった。しかも、昭和43年の初版で状態はとてもきれいだ。定価は当時で300円。現在の価格に換算すると倍ちょっとだろうか。思いもよらぬ三島に出会って「いい日だったなあ」と幸せ気分に浸った。さらに読み始めれば、これまた可笑しくて最高。三島がこんな小説を書いていたとは知らなかった。5人の登場人物がやりとりする手紙で構成された小説で、ウィットに富んだ切り返しと鋭い洞察力が満載で圧倒される。私は今まで三島作品は難しすぎて読み切った試しがないけれど、これは誰でも読めるし、普通に笑えるので、三島に興味ない方にもお勧めだ。

 ちなみに以下の写真に写るポストカードは写真家マン・レイ。2件目に行った古本屋のポストカードコーナーで100円だった。大半は絵画やイラストで、写真は他に森山大道の犬しかなかった。レジに持っていくと、店主から「マン・レイありました?気が付きませんでした。かっこいいーっすね!」と。「うんうん、あったよ。かっこいいよね!」と、私は言葉を反復して同調した。それから少しだけ話をした。ZINEは仕入れが別口なので扱うのが難しく、写真集は入荷が最近とても多いらしい。私が古本屋で買う写真関連本は雑誌が割と多くて、この店でも気になったのがあった。雑誌で1000円以上しても欲しいものは普段買うのだけれど、何故か手が出なかった。この後に100円の三島を手に入れることになるから、そういう日だったんだろうか。いずれにしても、総額200円の良き買い物が出来て大満足の1日だった。

2022.5.19 記