lapin noir

Diary / Photographer / Sapporo

記録集:はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす

 象の「はな子」を知らない人はいるだろうか?
 若い方はどうなのかな。戦後、初めてタイから来日した。最初は歓迎されたものの、ある出来事をきっかけに殺人ゾウと呼ばれるようになり、亡くなった頃には海外で「世界で最も悲しい象」と言われた。ドラマにもなっている。
 詳しくはリンク先を見てもらいたいが、この「はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす」の素晴らしさは、例えば経歴などの表面をなぞり、個人の勝手な想像でストーリーを作り上げないことだと思う。単調で膨大な記録写真から掘り下げられた人々の思いに触れると、次第に自分の家族へ焦点が移り、何度も浮かび上がってくる。そして、ただの背景として写真に写っていた「はな子」の存在がどんどん大きくなって、「はな子」と私たち自身の記憶と喪失の壮大な物語へと導いてくれるのだ。静かな感動すら覚える秀逸な記録集だと思った。

 本書は、象の「はな子」を背景に撮った家族写真をメインに、飼育員の飼育日誌、付録、小冊子で構成される。
 使われた写真は一般家庭から集められ、「はな子」が来日した1949年から亡くなった2016年までの550枚の中から、被写体が正面を向いているものや撮影日がわかるもの、鮮明なものを優先して169枚が選ばれ、モノクロにしてサイズは統一されている。
 ページを開くと「はな子」が来日してから時系列順に写真が並ぶ。複製された実寸大のプリントも張られ、掲載された飼育日誌と共に、ページを繰り返し捲り、所々に貼られたプリントをひっくり返しながら、「はな子」の一見代わり映えのしない亡くなるまでの日常の記録を見ていくことになる。
 また、挟み込まれた付録は、新聞記事やゾウ舎の図面などがあり、小冊子には写真を提供した人の写真にまつわるエピソードが綴られている。この小冊子は本編とは逆に「はな子」が亡くなってから来日まで遡って記されていて、本編と見比べることで、散らばったそれぞれの記録や思いが、一瞬を切り取った写真に集約されていることに気づき、はっとしてしまう。パラパラと捲り、ふと気になった写真の日付から小冊子を開いて、その日のエピソードを読むのもいいだろう。

 手に取って見ればわかるが、非常に細やかな整理と丁寧なつくりで、価格がわずか2,000円というのだから驚いてしまう。興味のある方はぜひ。私は第2版(2017年9月初版)を購入した。



[記録集] はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす  : I’m calling you. rebirth (reverse) of humans and the elephant.
[企画] AHA! [Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ] 
[発行] 武蔵野市立吉祥寺美術館
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2020.6.20 記